2012/08/20

サイボーグって君なのかい

リン・ランドルフ《サイボーグ》1986年



「私の家の近所には製紐会社の女工の寄宿舎がある。 工場の方は少し離れた所にあるので、夏冬ともに午前六時の汽笛を合図に昼夜交替の女工の群が、静かな田圃道に賑やかな下駄の音や笑声を響かせて行き交う。(略)

 すると例の工場がこのじき傍なので、鼠色の仕事服を着て髪をモジャモジャにして、眠そうな腫れぼったい眼をしながら、工場のある横町から、小娘がチョロチョロ駆け出してきては、角のやっと戸を一、二枚あけたばかりの店に姿をかくす。それは焼芋屋と水菓子屋とを兼ねた店である。やがてそこの葭簾と引残してある戸の蔭から再び現れる娘の手は、新聞紙の袋を抱えているか、仕事服のポケットから覗くそれを抑えつけているかする。  

 私はいつもそうした小娘を見た時に恐怖に似た一種の驚きを味わった。宿無しの瘦犬のようにみすぼらしいその姿は、身丈から推せばやっと十二、三であるのに、怯えたような、そのくせ人を人とも思わぬところもあるように見えるその顔つきはどう見ても三十越した女のようであった。(略)  

 (略)子供を寝せつけて再び眠ろうとする私の耳に、ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン、とその間断ない噪音が送り込まれるとき、私の目の前にはいつもいつも、青い葡萄や細い芋を口に押し込めながらあたりを盗み見する、あのオドオドしたようなしかも大胆らしい、人間と機械と動物との合の子のような気のする薄汚い小娘が、耳を聾するような音を立てる機械の傍で終夜働いているその姿が泛んでくる」

山川菊栄「労働階級の姉妹へ」1919年



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